ケニア出身の中距離女王、フェイス・キピエゴン選手。
1500mと5000mで世界記録を打ち立て、オリンピック3連覇を果たした彼女の強さの裏には、母としての顔があります。2018年に第一子を出産後、競技に復帰したキピエゴン選手は、むしろ以前よりも力強い走りを見せ続けています。子供との絆が生むモチベーション、幼少期から培った身体的基盤、そして負けを糧にする精神力、その全てが融合し、彼女を「世界最速のママアスリート」へと押し上げているのです。
キピエゴン選手のプロフィール
- 氏名：フェイス・チェプンゲティッチ・キピエゴン（Faith Chepngetich Kipyegon）
- 生年月日：1994年1月10日（31歳）
- 出身地：ケニア・リフトバレー州ナクル郡
- 身長/体重：157cm/42kg
- 主な種目：陸上競技・中距離走（1500m、5000m）
- 自己ベスト：
- 800m：1分57秒68
- 1000m：2分29秒15
- 1500m：3分49秒04
- 3000m：8分23秒55
- 5000m：14分05秒20
- 家族：夫は元オリンピックメダリストのティモシー・キプラガト氏、2018年に第一子（娘アリン）を出産。出産後に競技復帰し、複数の世界記録を樹立。「世界最速のママアスリート」として知られる
- 公式SNS：X（旧Twitter）、インスタグラム
主な実績
[オリンピック]
- 2024年パリ：1500m金メダル、5000m銀メダル
- 2020年東京：1500m金メダル
- 2016年リオデジャネイロ：1500m金メダル
[世界選手権]
- 2023年ブタペスト：1500m金メダル、5000m金メダル
- 2022年オレゴン：1500m金メダル
- 2019年ドーハ：1500m銀メダル
- 2017年ロンドン：1500m金メダル
- 2015年北京：1500m銀メダル
出産後の復帰は「キャリアの終わり」ではなく「新しい章の始まり」
2018年に第一子アリンを出産したキピエゴン選手は約1年間競技から離れました。
多くのアスリートにとって出産はピークを過ぎるきっかけになりがちですが、彼女は逆に復帰後の2019年世界選手権で銀メダルを獲得し、その後は1500m・5000m・1マイルで世界記録を樹立するという驚異的な進化を遂げます。
「母親になることはキャリアの終わりではない。新しい章の始まり」との言葉は彼女が世界中の女性アスリートに送る強いメッセージです。
娘アリンが与える“精神的な燃料”
キピエゴン選手はシーズン中は週6日をトレーニングキャンプで過ごし、家族と会えるのは週に1日だけ。レース前には毎回娘と話し、娘は母の成功を願い、お土産にチョコレートと金メダルをおねだりします。
子供なのでレースの状況などは十分に理解できないかもしれませんが、そんな彼女がいるおかげでキピエゴン選手は競技に全力で取り組むことができ、更に高みを目指すための原動力になっています。
幼少期からの“走る生活”が作った土台
ケニア・ナクル郡の小さな村で育ったキピエゴン選手は、幼稚園の頃から片道4kmを走って通学していました。
舗装されていない道、裸足での通学、そして高地特有の酸素の薄さ、これらが自然と心肺機能と脚力を鍛え、後の世界的ランナーとしての基礎を築きました。
勝利の裏にある“負けからの学び”
2024年パリ五輪では5000mで銀メダルに終わった直後、そのメダルを見えない場所にしまい、数日後の1500m決勝に集中しました。
この切り替えの速さと精神的な強さは、母としての忍耐力と責任感が大きく影響しているといえます。
次世代へのメッセージ
キピエゴン選手は自分の走りを通じて「母親になっても夢を追える」ことを証明し、特に若い女性や母親たちを励まし意欲を与えたいと語っています。
彼女の村では、彼女の金メダル獲得をきっかけに電気が通ったという逸話もあり、その影響力は競技の枠を超えています。
まとめ
キピエゴン選手の強さは出産後の復帰によって得た精神的な成長、幼少期から培われた生活環境による確かな身体的基盤、娘との深い絆がもたらす揺るぎないモチベーション、敗北を糧にして前進する切り替えの速さ、そして社会や次世代に与える大きな影響力が複雑に絡み合って生まれています。彼女は「母であること」を決して弱点とはせず、むしろ最大の武器へと昇華させた稀有なアスリートです。